液状化のおそれがある地盤では、杭の設計の際に注意する点がいくつかあります。その1つがネガティブフリクション(負の摩擦力)です。その意味と建築士試験での出題について解説します。
目次
ネガティブフリクションとは?
通常の地盤では、杭には下図のような力が発生します。
液状化や圧密沈下などで地盤が沈下すると、杭の周囲の地盤が垂れ下がり、下図のような力になります。
このとき、下向きに作用する摩擦力のことをネガティブフリクション(負の摩擦力)と呼びます。周辺の地盤が杭にぶら下がるイメージですね。
本来、杭は建物の自重を支えるためのものですが、地盤沈下が発生する場合、周囲の地盤がぶら下がってくるので、その分の荷重も考慮して杭を設計する必要があります。
杭の支持力の計算式
杭の先端支持力の計算式は、以下のとおり規定されています。
杭の支持力(建物から杭への荷重) = 先端支持力+周辺摩擦力
周辺摩擦力は本来、鉛直上向きに作用しますが、地盤沈下が発生すると、下向きに作用することになります。このため、「負」の摩擦力と呼ばれるわけです。
支持杭と摩擦杭の場合の違い
負の摩擦力の発生しやすさは、支持杭が摩擦杭かで異なります。
支持杭の場合は、先ほどの図のように、地盤沈下すると負の摩擦力が発生してしまいます。
一方、摩擦杭の場合、下図のように、地盤沈下に伴い杭も一緒に沈下していくので、杭と地盤の間の相対的な変位はあまり大きくなりません。よって、摩擦杭の場合はネガティブフリクションは発生しにくいといえます。
ネガティブフリクションへの対策
ネガティブフリクションが発生すると、その分だけ杭の余力がなくなることになるので、杭の破損に繋がります。対策としては、
- 杭経を大きくする
- 杭本数を増やす
- 杭表面の摩擦を小さくする
といった方法があります。
1,2は単純で、ネガティブフリクションによる杭への荷重増分を考慮して、大きめの杭にしたり、本数を増やすという対策です。考え方はとてもシンプルですね。
3は、杭表面の摩擦が小さくなれば、地盤沈下しても、杭に地盤がぶら下がりにくくなるため、結果としてネガティブフリクションが発生しにくくなるというものです。杭表面に特殊なアスファルトを塗ったものなどが使用されます。
図)
過去問
建築士試験ではあまり出題頻度は高くないようですが、以下のような出題事例があります。
地震時に液状化のおそれのない地盤において、杭の極限支持力は、杭の種類や施工 法に応じた極限先端支持力と極限周面摩擦力との和として算定できる。 (2016年構造No19(1)、○)
地震時に液状化のおそれのある地盤においても、杭の許容支持力は、載荷試験によ る極限支持力から求めることができる。 (2016構造No19(2)、×)
⇒液状化するので、ネガティブフリクションを考慮する必要がある。
まとめ
- 地盤沈下のおそれのある地盤では、鉛直下向きの力であるネガティブフリクションが発生する。
- 支持杭ではネガティブフリクションが発生しやすいが、摩擦杭では発生しにくい。
- 杭の設計の際にはネガティブフリクションを考慮して設計を行う必要がある。