構造設計において、地震時に建物の安全性を確保することは最重要課題と言えます。その方法のひとつとして免震構造があります。以前は一部の建物にしか採用されない特殊な構造でしたが、今ではすっかり普及しており、H27年度の1級建築士製図試験で出題されるほどに、一般的なものとなりました。ということで、免震構造について再整理しておきたいと思います。
目次
耐震・制振・免震の違い
建物の地震に対する設計として、耐震・制振・免震という分類をされることが多いと思います。以下のような違いがあります。
【耐震】
地震によって発生する力に対して、建物が耐えること。普通の建物はことタイプ。
【制振】
ダンパーなどの制振装置によって、揺れを制御すること。通常、免震を採用していない基礎固定も建物が対象。
【免震】
免震装置により建物を長周期化させることで、地震の揺れを免れること。
免震装置の種類
免震装置には、主に2つの機能が要求されます。
- 建物の自重を支持する
- 建物の周期を長周期化させる
- 地震時の揺れを吸収する
免震部材は、1~3のいずれか(または複数の組合せ)の機能を持っており、どの部材を採用するかは設計者の判断ということになります。
以下に、代表的な部材の特徴を整理しておきます。
積層ゴム
機能1と2を有し、おそらく最も一般的な免震装置です。これだけでは揺れが収まらないので、各種ダンパーと組み合わせて使用します。
滑り支承
機能1と2を有しますが、積層ゴムと違い、支承がすべるだけで元の位置に戻ろうとするバネの作用がありません。なので、積層ゴムと併用となります。
オイルダンパー・鉛ダンパー・鋼材ダンパー
機能3を有し、揺れを減衰させるものです。オイルダンパーは油の粘性により、鉛・鋼材ダンパーは、材料の塑性化により地震時のエネルギーを吸収するものです。
ビル免震用オイルダンパー | 免震・制振装置 | カヤバシステムマシナリー株式会社
鉛プラグ入り積層ゴム
鉛プラグ入り積層ゴムは、上記の1~3の全ての機能を1つの装置で有するというもの。よって、免震装置の数を減らすことができすので、免震基礎の数が減るなどピット階の構造が単純になります。
設計上の注意
製図試験で免震構造が指定された場合、設計としてどのような配慮をしたかを記述する必要が出てくると思います。代表的なものとして、以下のような回答が考えれます。
- 免震ピットの構造を単純にしてコストダウンをはかるため、鉛プラグ入り積層ゴムを採用する。
- 免震装置をバランスよく配置し、ねじれ振動が生じないようにする。
- 地震時の変形に追随できるように、フレキシブル配管を採用する。
- 免震装置の交換ができるように、地下ピットに搬入・搬出ルートを設けておく。
- 地震時の建物の挙動を把握するために、免震ピットにけがき計を設置する。
実務では一般的になりつつある免震構造ですが、構造系以外の人にはまだまだ理解が進んでいないかもしれません。まずは基本的な性質から理解を進めるようにすると良いかと思います。