ファイナンスに関する良いビジネス書を読んだ気がするので、書評にしておきます。が、なかなか難しい内容でした。
目次
ファイナンス思考とPL脳
本書では、ファイナンス思考を「会社の価値を最大化するために、長期的な目線に事業や財務に関する戦略を総合的に組み立てる考え方」と定義されています。その反対となるのがPL脳で、PL(損益計算書)の見栄えを重視し、目先のPLを最大化することこそが経営の至上命題であるとする考え方です。
PLは、会計規則に従い単年度の会社の活動を表すものですが、本来、企業が永続的に活動し続けるのならば、将来にわたって会社が生み出すキャッシュフローの最大化こそが、経営の目標となるはずです。しかし、日本企業の多くが、PL脳に侵され目先のPLの見栄えを優先し、長期的な視点に立って経営をできておらず、そのためアマゾンをはじめとする企業に大きな差をつけられている、というのが本書の主張です。
本書では、外資・日系問わず、ファイナンス思考により経営判断により成長した企業と、昔ながらのPL脳による経営により衰退していった企業について、実例に基づき解説されています。
PL脳に侵された会社の症例
第4章では、PL脳に侵された会社の行く末をいくつかの実例により紹介しています。自分の働いている会社にも似たような症状が多くみられ、つらい気分にもなります。
特に、対前年比により売上目標を立てるといったことは、多くの企業で行われていると思いますが、PL脳による症状の典型だそうです。
「特別付録 会計とファイナンスの基礎とポイント」がすでにとても良い
本書の冒頭、会計の知識がない人は先に付録の会計とファイナンスの基礎とポイントを読んでください、とあったのですが、付録のわりにとても充実している。特に、ファイナンスのところで、会社がお金を調達してくるコストであるWACCや、会社が事業を通じて得るリターンであるROICの解説がとてもわかりやすい。
資金調達のコストであるWACCを上回るリターン(ROIC)を出すような事業に投資すべきというのが本書の主な主張であり、「上場によって調達した資金で、国債を買う」がいかに馬鹿げているか、というわかりやすい例えで表現されている。
ファイナンス思考が大事なのはわかったが。
本書の主張するファイナンス思考が大事なことはよくわかったのですが、一方で、経営に関わっているわけでもない普通の会社員が、どうファイナンス思考を仕事に活かせばよいのか、という疑問もわいてきました。本書でも、ファイナンス思考は経営層のみでなく全社員が持つべき考え方であると書かれています。とはいえ、多くの会社では、部署ごと(あるいは個人でも)に売上や利益の目標が対前年比という形で課せられている現状、それに従わざるを得ないのかな、と思うところです。