人生を成功させるには、運や実力よりも人を勘違いさせる力である「錯覚資産」が重要で、この錯覚資産を理解するとともに、いかにこれをうまく使って人生を成功させるか、ということが本書では書かれています。いわゆる成功本の一種ですが、認知心理学などの知見を引用しながら面白く書かれていました。簡単にレビューしてみたいと思います。
目次
人生は運ゲーであり、運・実力より錯覚資産が重要となる
学生時代は、テストという極めて公平な評価手法がとられる。よって、どれだけ勉強して学力をつけたかという「実力」と、たまたま自分の得意な問題が出た・たまたま選んだ選択肢が正解だったという「運」によって成績が決まります。割合としては当然ながら「実力」のほうが大きいため、ちゃんと勉強した人がいい成績を出して評価されるというものでした。
一方、社会人になると、例えば会社での人事評価や転職時の採用面接などでは、学力テストのように公平で定量的な評価はなされず、「この人は優秀そうか」という何となくのイメージで評価されがちです。この時、この人の評価は「運」でも「実力」でもなく、(実際にはそうでなくても)優秀そうに見えるという「錯覚」によって決まります。また、「錯覚」に比率は「運」や「実力」よりもはるかに大きいため、この「錯覚」を味方につけられるかどうかで、今後の評価に大きな格差が生じることになります。
さまざまな思考の錯覚
本書では、認知心理学により明らかにされた様々な思考の錯覚を紹介しています。どれも面白い心理学的知見ですが、特に重要なものは以下の3つと思います。
1.ハロー効果
この本で最もよく登場する思考の錯覚のひとつ。ある1つの項目について高い評価をされている人は、その他の項目も全体的に高いと評価されてしまう現象。また逆に、なにか1つの欠点に引きずれれて、全体的に低い評価をされることもあり得る。
容姿がいいひとは、人間性も良く、仕事のできも良いと思われる。ある部署で素晴らしい成績を出した社員は、本当はそれが単なる偶然によるものであったとしても、そもそも能力が高くほかの仕事でも良い結果と思われる。
運を実力だと錯覚するというものも、ハロー効果による部分が大きい。
2.利用可能性ヒューリスティック
脳がすぐに使いやすい情報だけを使って答えを出そうとすること。人間は何かの判断をするときに、深く考えていろんな情報を精査するのではなく、とっさに思い浮かぶ情報だけを使って判断してしまう。
3.感情ヒューリスティック
好きな物はメリットばかりでデメリットはほとんどなく、逆に嫌いな物はメリットはほとんどなくデメリットばかりであると思い込んでします認知バイアス。
自分の好きな商品は、本当はいろいろとデメリットがあるにもかかわらず、その良い点ばかりに着目してしまう。メリット・デメリットを客観的なデータで示されてから好き嫌いを判断するのではなく、先に好き嫌いがあり、それに基づいて自分に都合よくメリット・デメリットを解釈しようとしてしまう。
錯覚資産を用いた成功スパイラル
このような錯覚資産の特徴を踏まえると、次のような4要素での成功スパイラルが考えられる。
実力→成果→錯覚資産→環境→実力→成果→・・・・
つまり、実力により何らかの成果を出すと、それによりハロー効果が生じて、実力以上に高く評価される錯覚資産が出来上がる。すると、より良い環境を手に入れることができ、さらに実力を磨くことができる。するとさらに、成果を出す確率もあがる。これを繰り返していくと成功スパイラルに突入するということである。
また、場合によっては、実力がなくても、錯覚資産により良い環境が得られ、それにより成果が出るという3要素での成功スパイラルや、錯覚資産だけで成果を作っていく2要素の成功スパイラルもあり得るとのこと。
このような錯覚資産を入れた成功スパイラルに乗れるかどうかで、10年後・20年後に大きな格差が生じてしまう。よって、いち早く錯覚資産を使いこなせるようになる必要があるのである。
どうやって成功スパイラルに入るか?
で、結局どうやったらこの成功スパイラルに入ることができるのか。これは、「とにかく試行回数を増やすこと」に尽きると書かれています。
錯覚資産を手に入れるには、とりあえず何らかの成果が必要ですが、なにかにチャレンジして成功するのはほとんど運で決まってしまいます。なので、とにかく試行回数を増やして、1つでよいからまずは成果を手に入れることが重要。このとき、コストパフォーマンスを意識するのではなく、コスパは悪くてもとにかくパフォーマンスを出す、ということが大切です。
本書でかかれていることは、心理学などの本に既に書かれていることばかりではありますが、改めてその重要性を示し、わかりやすく整理されている点がとても良いと感じています。